Column ―弁護士の眼―

2024.04.23

最近の裁判例から

 大学職員が自殺したのは業務に起因した精神障害に基づくものであるとして、遺族が労災保険法に基づいて遺族給付金等の支給を求めたところ、不支給とする処分がなされたためにその取り消しを求めた裁判がありました。
 労災保険法に基づく保険給付は、病気が業務を原因とするものでなければならないとされています。
本件のように、心理的負荷による精神障害の労災認定基準については、厚労省のホームページで見ることができます。
 この基準にあてはめて判断された場合、裁判所がその判断が一定の合理性を有すると判断すると、一度下された行政処分が覆されるのは難しいということになります。本判決(大阪地裁令5・3・23)もそうした判断でした。
 労働災害について、ご相談されたい方はご連絡下さい。このページを見ていただいた方には、相談料は無料とさせていただきます。
                  (八十島 保)

2024.04.08

最近の裁判例から

 特別養護老人ホームに入所していた高齢者(当時81歳)が、食事中、口の中に食物を含んだまま動かなくなり、その後職員が食物を吐き出させたのですが意識不明となり、その日のうちに亡くなるという事故がありました。
 そこで亡くなられた高齢者のお子さんが、老人ホームを経営していた会社を訴えました。
裁判所は、老人ホーム側の責任を認めたのですが、この高齢者に対しては、嘔吐したりむせにくい食事にしていたところ、家族の希望により普通の食事に戻したといった事情があったことから、賠償額を5割差し引いたというものです。
こうした高齢者施設における事故は数多くあるのですが、責任の有無や程度は、各事例毎に詳しく検討しなければなりません。
相談を希望される場合はご連絡下さい。お待ちしています。
                        
                     (八十島 保)
 

2019.11.07

相続に関する法律が改正されました⑨

 遺言には、特別な場合も含めいくつか方式が法律で決められており、それに従う必要があります。
 今回、自筆証書遺言について改正がなされ、2019年1月13日から施行されています。
 自筆証書遺言とは、遺言者が、全文、日付及び署名を自ら手書きし、印を押したものです。
 全文ですので、これまでは、財産目録も全て手書きでなければならず、パソコンで作成したものや、通帳のコピーを添付しても有効な遺言書とは認められませんでした。
 しかし、自筆証書遺言をより使いやすくすることにより、その利用を促進する目的で、本文に添える財産目録については手書きでなくても良いことになりました。但し、偽造や変造を防止する観点から、目録の各頁に署名し印を押す必要があります。    (八十島 保)
                               

2019.09.26

相続に関する法律が改正されました⑧

 前回ご説明したように、遺産分割前であっても、一定の限度で預貯金の払戻しを認める制度が設けられました。
 しかし、これでは不足する場合はどうしたら良いのでしょうか。
家事事件手続法200条3項に、遺産分割の審判または調停の申立があった場合は、家庭裁判所は一定の事情により遺産に属する預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができると定めています。
 他の共同相続人の利益を害する場合は認められませんが、急迫の危険を防止するため必要があるときといった事情がなくても、払戻しが認められることになります。
 但し、これはあくまで仮に取得させるものですので、後の遺産分割には影響しません。
                         (八十島 保)
                               

2019.09.02

相続に関する法律が改正されました⑦

 最高裁の決定によりますと、葬儀費用の支払いや債務の弁済、あるいは被相続人から扶養を受けていた人の生活費のためにお金が必要であっても、遺産分割が終わるまでは、被相続人の口座から預金の払戻しをすることはできないことになります。
 そこで、これでは不都合だということで、各共同相続人は、遺産分割前であっても、裁判所の判断を経なくても、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けられることにしました。
 一定の範囲とは、相続開始時の預貯金債権の額の3分の1に払い戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額とされてます。
 ですので、①であげた例によりますと、亡くなったご主人の奥さんが払い戻しを希望する場合、500万円×3分の1×2分の1ですので、約83万円の限度で払い戻しができることになります。
                       (八十島 保)
                         

2019.08.22

相続に関する法律が改正されました⑥

 今回の改正では、相続財産の中に預貯金がある場合、各相続人は、遺産分割される前であっても、一定の範囲で預貯金の払戻を受けることができるようになりました。
 なぜこのような制度が設けられたのか、その理由を知るためには、平成28年12月19日の最高裁大法廷決定を知る必要があります。
 この決定が出るまでは、預貯金債権は、相続により各共同相続人の相続分に従って当然に分割されるというのが判例でした。ですので、各相続人は、自己の相続分に応じて単独で預貯金債権を行使するつまり預貯金を引き出すことができるとされていました。
 ところが上記決定は、判例を変更し、預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれるので、遺産分割がなされるまでは、各相続人が単独で払い戻しをすることはできないとしたのです。
 最高裁がこのように判断を変えた理由として、預貯金債権は相続と同時に共同相続人全員に帰属するのですが、共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動しうるものとして存在するので、遺産分割がなされるまでは各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解されるとしたのです。
                       (八十島 保)
                         

2019.08.05

相続に関する法律が改正されました⑤

 配偶者居住権が認められますと、配偶者の具体的な相続財産取得分の中に、この配偶者居権の評価額が含まれるということになります。
 最初に掲げた例によりますと、相続財産は、不動産が1500万円、その他現金が500万円の2000万円で、相続人が奥さんと子がふたりの3人でした。
 配偶者居住権が認められず、かつ奥さんが不動産を取得しようとすると、奥さんは相続財産の500万円とは別に現金500万円を用意しなければなりませんでした。
 これに対し、配偶者居住権が認められ、その評価額が500万円としますと、相続財産は1000万円ということになり、奥さんは相続財産の中の現金500万円を2人に子に渡せばよいということになります。
 なお、特別受益という難しい問題が生じることもありますが、これは別の機会にお話しします。
 このように、配偶者居住権が認められますと、そのまま居住を希望されている場合には、遺産分割の負担が相当軽減される可能性があります。
                    
                         (八十島 保)

2019.07.23

相続に関する法律が改正されました④

 配偶者居住権が認められるための二つ目の事情についてお話しします。
 配偶者居住権が認められるためには、その建物について、配偶者に配偶者居住権を与えるという内容の遺産分割か遺贈か死因贈与がされていることが必要です。
 遺産分割というのは、相続人同士で話し合いをして、遺産を分けることですが、家庭裁判所で調停(話し合いのことです)をしても結論が出ない場合には、審判といって裁判官が決めることになります。
 審判の手続きに移った場合、新しい民法は、審判では、共同相続人の間で、配偶者に配偶者居住権を認めることについては合意している場合か、合意ができていない場合は、配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるときに限り、配偶者居住権を取得させるという審判が出せるとされています。
 ですので例えば、亡くなった方が再婚していて共同相続人が前妻の子供達と後妻さんという場合は、容易に配偶者居住権が認められないということがあり得ます。
                        (八十島 保)

2019.07.16

相続に関する法律が改正されました③

 配偶者居住権が認められるためには、夫が所有していた建物に奥さんが住んでいたことに加え、奥さんが夫が亡くなった時点で、無償つまりただでその建物に住んでいたことも必要です。
 もし、奥さんが夫にお金を払っていた場合には、夫婦の間に賃貸借契約など何らかの契約関係があったことになりますから、夫が亡くなっても、その契約関係は無くならず、相続人に引き継がれることになりますので、配偶者居住権を認める必要はないということになります。
 ですので、本件の場合、協議の結果、夫所有の戸建て住宅について、当面相続人3人の共有とし、持ち分は、法定相続分によると決めたとしますと、奥さんは、夫が亡くなるまで夫に払っていた賃料の半分を2人の子供達に払って住み続けるということになるわけです。
                          (八十島 保)

2019.07.11

相続に関する法律が改正されました②

 配偶者居住権についての続きです。
 これが認められますと、夫を亡くした奥さんは、無償でそれまで住んでいた建物を使用することができることになります。
 この配偶者居住権が認められるには、次の二つの事情が認められる必要があります。
 一つは、夫が亡くなった時点、つまり相続が始まった時点で、夫が所有している建物に奥さんが住んでいたことが必要です。
 夫が、自分の親や兄弟と共有していた場合には、この配偶者居住権は認められないとされていますが、奥さんと共有していた場合は、認められます。
 奥さんが住んでいたことが必要なわけですが、一時的に入院していた場合はどうでしょうか。
 その場合でも、退院後は家に戻ることが予定されている場合には、認められると考えられています。
                         (八十島 保)

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