2024.07.16
最近の裁判例から
分譲マンションの住民が、上階からの漏水事故によって損害を被ったとして、上階の部屋の所有者とマンションの管理組合を相手に損害賠償を求めて裁判を起こしました。
このケースでは、まず漏水が起こった原因について争われたのですが、これについては、上階の部屋の外壁のコンクリート躯体部分に隙間ないし亀裂が生じていたことによるものであるとし、これは民法717条1項本文で規定している土地工作物の保存に問題があって他人に損害を生じさせたことになるので、賠償責任は発生すると判断しました。
そこで問題となるのは、誰がその責任を負うのかです。原告は上階の部屋の所有者とマンションの管理組合を訴え、地方裁判所はこれを認めたのですが、その後控訴され、高等裁判所では、管理組合に対する請求は認めなかったようです。
管理組合に対する請求が認められないということになると、マンションの区分所有者全員を相手方としなければならず、そうなりますと損害の回復も困難となる可能性があります。
この問題については、最高裁判所の判断がないようなので、それが出るまでは、判断が安定しないことになるので大変です。
当事務所では、マンションに関する問題も取り扱っておりますので、ご相談下さい。
(八十島 保)
2024.07.01
最近の裁判例から
中学校3年生の男子生徒が、学校の運動会の組体操のプログラムに参加した2日後に脳出血により死亡したことから、死亡した生徒の両親が、生徒が死亡したのは、組体操の際に、生徒の頭部に外力が加わったためであるとし、学校の教諭らに安全配慮義務違反があるなどとして裁判を起こしました。
平成28年6月に発生し、一審の判決が出たのが令和5年4月なので、約7年かけて判断が出ており、大変な裁判だったようです。
本件では、そもそも組体操の際に何があったのか、そのことと生徒の死亡との間に因果関係が認められるのかが激しく争われたようです。
まず何があったかですが、組体操に参加していた生徒らに対する聞き取り調査が行われているのですが、結局亡くなった生徒の頭部に強い外力が加わったとか、生徒が落下し頭部を強打したとかといった事実を認定することは難しいという判断でした。
次に、医学的見地からも、亡くなった生徒に生じた脳出血が外傷性であることを裏付けるものがないし、また事故後2日後に亡くなっている点についても、遅発性外傷性脳内出血腫とすることも困難であると判断し、両親の訴えを退けました。
それでは生徒はなぜ脳出血で亡くなったのかということが問題になるわけですが、死亡原因は、組体操時に何らかの外力が加わったために脳出血を起こしたとみるべきであり、そこには高度な蓋然性が認められるという判断もあり得たのではないかと思います。ただ本件の場合は、安全配慮義務を尽くしても防げなかった可能性があったと思いました。この裁判で裁判官がその判断の根拠とした医師の見解は、私にとっては、説得力があるとは思えないものでした。
(八十島 保)
2024.06.17
最近の裁判例から
一般の社員と有期契約労働者との間で、扶養手当、リフレッシュ休暇、年次有給休暇の半日単位の取得、特別休暇さらには福利厚生に違いがあるとして損害賠償を求めた裁判がありました。
この裁判は、地方裁判所の判断でしたが、この問題について、最高裁判所平成30年6月1日に判決を出しています。
最高裁は、それぞれの業務内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及びその配置の変更の範囲その他の事情を指摘した上で、その判断においては各賃金項目等の個別の趣旨を考慮すべきとしました。
この裁判は、このような観点から、それぞれの問題について個別に判断し、あるものについては不合理であるとし、別のものについては、不合理とはいえないといった判断をしました。
この問題は、一概には結論が出せないので、必ず弁護士に相談しましょう。 (八十島 保)
2024.05.27
最近の裁判例から
高校に入学して自転車競技部に入部し、部活の練習として国道の下り坂を走行中、カーブを曲がり切れずにガードレールに衝突し、両下肢全廃等の後遺障害を負ったという事故がありました。
この生徒は、自転車競技の経験こそなかったものの、指導教諭から体力があったことから上級生とともに走行するよう指示されていました。
この事例では、指導教諭の過失の有無と被害者側の過失の有無が問題となりました。
指導教諭の過失については、部活の内容や危険性、生徒の技能や指導水準といったものが考慮されて判断されます。
本件のような競技用自転車の運転は、通常の自転車のようなわけにはいかないことから、特に経験の浅い生徒に対しては充分な配慮が必要だったと思われます。この裁判でも指導教諭の過失を認めています。
他方、生徒側の過失については転倒しない速度で走行することについて指導されたことがなく、練習する機会も与えられていなかったとしてこれを否定しています。
(八十島 保)
2024.05.14
最近の裁判例から
幼稚園の年中組に在籍していた子が、昼食時に持参した弁当に入っていたウィンナーを誤嚥して窒息し、重い後遺症を負った事故について幼稚園を訴えた裁判がありました。
裁判所は、幼稚園の先生は医療従事者ではないことから、医学的に最良の救命措置を講じることができなかったとしても、直ちに法律上の過失とはいえないと判断しました。但し、園長に対しては、少しでも早く心肺蘇生法を実施すべき状況だったとして過失を認めたのですが、この過失がなければ重い後遺症が残らなかったとまでは認められないとしました。
本件のように、保育施設や学校における園児・生徒の誤嚥事故に関し、職員等の過失が問われる事例は少なくないようです。
この裁判所の判断は法律的には正しいのでしょうが、ご本人やご家族の立場からするとやりきれないでしょうね。確かに幼稚園の職員は、医療従事者でないとしても、自分の身を自分で守れない弱者を預かっているわけですから、本当に結果回避義務を尽くしたのかについて、このような判断がいいのか検討されるべきだと思います。
(八十島 保)
2024.04.23
最近の裁判例から
大学職員が自殺したのは業務に起因した精神障害に基づくものであるとして、遺族が労災保険法に基づいて遺族給付金等の支給を求めたところ、不支給とする処分がなされたためにその取り消しを求めた裁判がありました。
労災保険法に基づく保険給付は、病気が業務を原因とするものでなければならないとされています。
本件のように、心理的負荷による精神障害の労災認定基準については、厚労省のホームページで見ることができます。
この基準にあてはめて判断された場合、裁判所がその判断が一定の合理性を有すると判断すると、一度下された行政処分が覆されるのは難しいということになります。本判決(大阪地裁令5・3・23)もそうした判断でした。
労働災害について、ご相談されたい方はご連絡下さい。このページを見ていただいた方には、相談料は無料とさせていただきます。
(八十島 保)
2024.04.08
最近の裁判例から
特別養護老人ホームに入所していた高齢者(当時81歳)が、食事中、口の中に食物を含んだまま動かなくなり、その後職員が食物を吐き出させたのですが意識不明となり、その日のうちに亡くなるという事故がありました。
そこで亡くなられた高齢者のお子さんが、老人ホームを経営していた会社を訴えました。
裁判所は、老人ホーム側の責任を認めたのですが、この高齢者に対しては、嘔吐したりむせにくい食事にしていたところ、家族の希望により普通の食事に戻したといった事情があったことから、賠償額を5割差し引いたというものです。
こうした高齢者施設における事故は数多くあるのですが、責任の有無や程度は、各事例毎に詳しく検討しなければなりません。
相談を希望される場合はご連絡下さい。お待ちしています。
(八十島 保)
2019.11.07
相続に関する法律が改正されました⑨
遺言には、特別な場合も含めいくつか方式が法律で決められており、それに従う必要があります。
今回、自筆証書遺言について改正がなされ、2019年1月13日から施行されています。
自筆証書遺言とは、遺言者が、全文、日付及び署名を自ら手書きし、印を押したものです。
全文ですので、これまでは、財産目録も全て手書きでなければならず、パソコンで作成したものや、通帳のコピーを添付しても有効な遺言書とは認められませんでした。
しかし、自筆証書遺言をより使いやすくすることにより、その利用を促進する目的で、本文に添える財産目録については手書きでなくても良いことになりました。但し、偽造や変造を防止する観点から、目録の各頁に署名し印を押す必要があります。 (八十島 保)
2019.09.26
相続に関する法律が改正されました⑧
前回ご説明したように、遺産分割前であっても、一定の限度で預貯金の払戻しを認める制度が設けられました。
しかし、これでは不足する場合はどうしたら良いのでしょうか。
家事事件手続法200条3項に、遺産分割の審判または調停の申立があった場合は、家庭裁判所は一定の事情により遺産に属する預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができると定めています。
他の共同相続人の利益を害する場合は認められませんが、急迫の危険を防止するため必要があるときといった事情がなくても、払戻しが認められることになります。
但し、これはあくまで仮に取得させるものですので、後の遺産分割には影響しません。
(八十島 保)
2019.09.02
相続に関する法律が改正されました⑦
最高裁の決定によりますと、葬儀費用の支払いや債務の弁済、あるいは被相続人から扶養を受けていた人の生活費のためにお金が必要であっても、遺産分割が終わるまでは、被相続人の口座から預金の払戻しをすることはできないことになります。
そこで、これでは不都合だということで、各共同相続人は、遺産分割前であっても、裁判所の判断を経なくても、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けられることにしました。
一定の範囲とは、相続開始時の預貯金債権の額の3分の1に払い戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額とされてます。
ですので、①であげた例によりますと、亡くなったご主人の奥さんが払い戻しを希望する場合、500万円×3分の1×2分の1ですので、約83万円の限度で払い戻しができることになります。
(八十島 保)