Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-09-21 Fri

高橋源一郎「ニッポンの小説2さよなら、ニッポン」(文藝春秋)2011年2月20日刊


 さて、日本の小説はどうなっていくのかパート2です。ここでも、従来の小説は終わっているということを繰り返し述べています。我々は、「現実」を強引に解釈しようとしているだけで、「生の現実」を知らない。たいていの場合、ぼくたちが読んでいる「文章」というものの大半が「できあがっているもの」で、既製品を組み合わせて書いている。そして、歌人の穂村弘の「我々の『今』には『もっと大きな意味で特別』なことがある。それは、人類の終焉の世紀を生きるという意味である。」という言葉や、吉本隆明の「若い人たちの詩を読んでみますと、全体の特徴としていえることは、『自然』がなくなっちゃっているということです。これにどう対応していいのかわからなくなっている。」といった発言を引きながら、「著者」がたどり着いた「果て」には「無」だけがあった。その「無」の中に、微細ななにかが、存在していた。それを名指すためには、おそらく、それまでとはちがう言葉を必要としていると結んでいます。
 はて、それで感動できるんでしょうか。

2012-09-21 Fri 17:44 | 新刊本

2012-09-21 Fri

高橋源一郎「ニッポンの小説 百年の孤独」(文藝春秋)2007年1月10日刊


 著者が、「日本」ではなくあえて「ニッポン」としたのは、この問題が、現実の「日本」ではなく、遠い極東のある国の文学の問題として書こうとしたか、あるいは逆に不変性のある問題として提起しようとしたからかもしれません。
 著者は、「文学」という集落に対する違和感と、その集落が没落の過程をたどりつつあるのに、もしかしたら消滅しそうになっているのに、そのことにほとんど誰も気付いていないのではないかということから、マルケスの「百年の孤独」のように、「ニッポン近代文学」の起源を探る旅をはじめたのでした。そうしたら、なんとすでにフタバテイは、「文学」では「真実」を描けないと考えていたのでした。
 小説や文学に可能性があるとしたら、「生者たちの公用語」から徹底的に離れ、そのことによって、別のなにものかを指し示すしかないのではないかと、著者は言います。
 問題は、仮にそれによって「真実」が描かれたとしても、それがおもしろいのか、感動できるのかということではないかと思いますが。

2012-09-21 Fri 17:41 | 新刊本

2012-09-21 Fri

朝山実「アフター・ザ・レッド」 (角川書店) 平成24年2月15日刊


 副題が「連合赤軍兵士たちの40年」となっているように、「連合赤軍事件」に関わった人たちの、「その後をどう生きてきたのか」を聴こうとしたものです。
 当たり前といえば当たり前ですが、皆さん、淡々と現実を生きています。ではありますが、そこに屈託がないわけではないと思います。そこがほんの少し垣間見られるところが、読みどころでしょう。それは例えば、こんな言葉に出ています。
 「正しいと思ったからやったんです、あのときは。ただ、正しいかどうかの判断に、迷いがあった。それが真実に近いと思うんですが。僕が革命闘争をやろうとしたことは間違ってはいなかった。それはいまもそう思っています。」、「当時僕らには、そんなに追い詰められたという気持ちはぜんぜんなかった。あれは森さんにとっての一つの挑戦だったと思うんです。新しい闘いを切り開くための。」、「実は、死ぬ覚悟というのは、そんなに難しくない。だけど殺すというのは決意をしても、なかなかできるものではない。しかし、(森は)それをやり切らないといけないと考えたのではないか。」

2012-09-21 Fri 17:38 | 新刊本

2012-09-06 Thu

森達也 「ぼくの歌・みんなの歌」 (講談社文庫) 2012年8月10日刊


 歌を通じて、自分や友人を語り、あるいはその曲を作ったミュージシャンを語るという本で、一気に読まされました。有名な曲なのに、何を歌っていたのか知らなかったものが多くありました。例えば、72年にヒットしたアルバート・ハモンドの「カリフォルニアの青い空」は、原題は「南カリフォルニアには雨が降らない」で、アメリカには来たものの、仕事にあぶれ、物乞いのようなことまでしたという原体験を反映したもので、曲調と異なり、明るい詩ではありません。また、スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」は、アメリカの愛国心発揚ソングではなく、アメリカの酷薄さを歌ったものです。
どうも、「ほとんどのアメリカ人は、歌詞なんかまともに聴かない」ようで、英語の分からない日本人と同じレベルです。安心しますね。
 ボブ・ディランのわかりにくさについて語りながら、「程度の差はあるけれど、僕らはみんな転校生だ。この場所からあの場所へ。この人からあの人へ。こうして月日は過ぎる。僕自身も、偽装を捨てる日はまだ先のようだ。もしかしたらこの偽装の中にしか真実はないかもしれない。」と書いていますが、なるほどです。

2012-09-06 Thu 17:20 | 新刊本

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