Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-11-14 Wed

本の雑誌編集部編別冊本の雑誌16「古本の雑誌」2012年10月25日刊


 これは、本の雑誌の別冊で、古本にまつわるエッセイや古本好きによる座談会、果ては4コマ漫画まで収められています。装幀は、平野甲賀です。
 古本好きには大変楽しめる企画ですが、そうでない人にとっては、信じられないことがたくさん出てきます。
 例えば、座談会の中で、「2001年は2800冊ぐらいですね。そのうちダブリが314冊。」、「ぼくは1374冊中ダブリが487冊。」、「集めて楽しい売って楽しい、さらに読めるという付加価値まである。」、「読みたい本って家で探すよりも古本屋で買ったほうが早いですからね。」、「苦労して探した本を2000円くらいで買うじゃないですか。その翌日百円で見つけちゃうと悔しくて買わずにいられないんですよ。」、「本気の人たちはすごいですよ。閉まっている古本屋も開けさせる。」といった発言が出てきます。
 いやあ、実に励みになりますね。


2012-11-14 Wed 19:04 | 新刊本

2012-11-14 Wed

吉行淳之介「エッセイコレクション3」(ちくま文庫) 2004年4月7日刊


 編者は荻原魚雷で、出典を見ますと、全集に収められていないものからも拾っていることが分かります。この第3巻は、「作家」と題されていて、書くこと、読むこと、作家として暮らしていくことなどについてつづったものを収めています。
 解説は荒川洋治で、吉行の文章について、「軽快だが、だいじなところに、やはり、ふれる。さらにふれているのに、ふれていることが目立たない。そこが涼しい。気持ちのいい文章だと、ぼくは思う。」と書いています。
 しかしなかには、オヤッと思うほど熱い文章もあります。例えば、「敗戦を軍国主義と画一主義の崩壊とみなして、自分たちの敵が負けたという錯覚を持った人が多かった。私もその一人である。」、「戦争で死んだ人達は、強制的に犬死させられたのである。後に残った人々がそう認識することが、彼らに対する『慰霊』なのである。」などがそうでしょう。

2012-11-14 Wed 18:44 | 古本

2012-11-12 Mon

児玉隆也「一銭五厘たちの横丁」(岩波現代文庫) 2000年4月14日刊


 元本は晶文社から75年2月に刊行されています。一銭五厘とは、召集令状のはがき代のことだそうです。昭和18年当時、写真家の桑原甲子雄は、質屋の長男として、写真を趣味としていましたが、政府が、50数名のアマチュアカメラマンを集め、在郷軍人会に案内させて出生軍人の留守家族を訪問し、戦地に送る“銃後”の姿を撮らせたため、それに参加し、東京下町の路地から路地を歩き写真を撮りました。そのとき撮影した写真のネガが99枚残されていて、これは、この写真に残された人々の30年後を訪ね歩いたルポです。
 著者は、この本を作った動機を、天皇から一番遠くに住んだ人々の、一つの昭和史を聞きとることであったと書いています。ところが、30年後の追跡は容易ではなく、「まるで神隠しだ、町ぐるみみんな蒸発してしまった。」とつぶやくことになります。
 桑原の写真は、ネガの状態で残されていたため、まるでつい最近撮影されたかのようで、当時と現在が、リアルにつながっている感じを受けます。
 聞きとりの内容で印象深かったのは、特攻隊員だった人の話で、訓練中飛行機がキリモミ状態で落下し始めたとき、「頭から足の爪先まで美しく透明な水が流れたと感じ」、まるで「自分が神様のような気持ちになった」というところでした。勿論経験したくはないですが。

2012-11-12 Mon 17:02 | 古本

2012-11-10 Sat

山口瞳「江分利満氏の優雅な生活」 (新潮文庫)昭和43年2月20日刊


 昭和37年度下半期の直木賞受賞作で、映画化もされています。
 解説者の秋山駿によれば、「生活と人生に関する観察家の文章である。」と書いていますが、いわゆるユーモア小説とは一線を画した内容となっています。
 たとえば、「不安と焦燥と反撥と労わりあいみたいなものが江分利の新婚6ヶ月だった。いつ頃からかはっきり分からないが、江分利は夏子と庄助を自分の妻として自分の倅として愛するようになった。夏子も時折、屈託なく笑うようになった。それが江分利には不思議である。実に不思議なのだ。」とか、「カルピスは恥ずかしい。昭和のはじめにあって、昭和のはじめに威勢がよくって、それがずっと10年代から戦後の今でも威勢がいいような、そういうものが恥ずかしいんじゃないかね。大正末期・昭和初期という時代も、江分利にとって恥ずかしい。」と書いてあるあたりが、なかなか真似しがたい独特なものを感じます。

2012-11-10 Sat 09:49 | 古本

2012-11-07 Wed

森達也 「メメント」 (実業之日本社) 2008年9月5日刊


 メメントとは、メメントモリからきていて、ラテン語で、意味は「死を想え」です。
 著者は、「死は排除したいけど、現実にそこにある。見て見ないふりはしたくない。平和を願うためには戦争を想わねばならない。この世界の豊かさや優しさを実感するためには、貧しさや憎悪から眼を逸らしてはいけない。」との考えから、いろいろ現実をみつめるためのエッセイを書いたとあります。
 なるほど、宗教の問題やメディアの問題、さらには表現の問題について書かれています。
 例えば、「圧倒的な情報量を瞬時に伝達できるテレビは、簡単に観る人の思考を停めることができる。」、「特に民意の増幅と感染を大規模に媒介するマスメディアが発達した現代に生きる僕たちにとって警戒すべきなのは、外なる悪ではなく内なる善なのだ。」、「事実など本来は伝えられない。省略や再構成はメディアの基本原理である。」、「表現には欠落が大事なのだ。受ける側は与えられるだけになる。喚起されなくなる。」など。
 メディアの側にいた(いる)者の実感があります。

2012-11-07 Wed 17:35 | 新刊本

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