Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-07-12 Thu

山口昌男 「本の神話」 (中公文庫)  昭和52年12月10日刊


 由良の「みみずく偏書記」でも取り上げられていた本です。この本は、モーツアルトの話から現代アフリカ論へ、蒐集の話からカバラ、ゲーテ、フロイトそしてボルヘス論に及ぶというものですが、解説を書いている大江健三郎によれば、ただの博識な雑学家の話の泉と思ったら大間違いということです。
 生活世界の中に隠された<知>を読みとること、ある旧弊な<知>の世界が黄昏に近づき、その旧弊な<知>の世界を墨守する神々たちの足下の大地が亀裂を生ずるとき、<その亀裂を通して立ち現れたもう一つの世界、もう一つの世界の相貌を組織すること>であり、これが著者の自称する<拾い屋>すなわち<プリコール>の仕事なのであるということだそうです。

2012-07-12 Thu 17:32 | 古本

2012-06-28 Thu

安東次男詩集  (書肆ユリイカ) 1957年8月30日刊


 この詩集は、「今日の詩人双書」の1冊で、彼の4つの詩集と俳句から、飯島耕一が編集したもので、長い解説も書いています。安東について、飯島は、「暗黒に敏感であり、近代日本の持つ諸矛盾に圧迫を感じないではいられない詩人であった。しかし、彼は、人間の、本質的な明るさ、楽天主義的なほどの明るさを知らずにすましておくことはできない。」と述べています。
            「ぼくの名まえは」から
        すべてはもとのままであるのに
        どこかが永久にくるってしまった
        なにものにも似ない  あなたよ
        ぼくはあなたにはなしかける
              (略)
        世界よ  残忍な灰色の雨期よ
        こんこんと眠る女
        小鳥を秘めて(小鳥はとぶだろうか?・・・・・・)
        小鳥がとびたつとき ふっとぶ世界
        そのときのまぶしそうな太陽を逃すな!

2012-06-28 Thu 17:15 | 古本

2012-06-22 Fri

安東次男 「現代詩のイメージ」 (書肆ユリイカ)  1956年5月15日刊


なんと私が持っているのは第2版です。この種の本、しかもユリイカの本としては、大変珍しいのではないかと思います。初版は前年の1955年に出ています。
 さて、著者自身も詩人でありますが、詩人とは、言語脈をわきまえざるを得ない宿命におかれたときに、「説明的表現へのすべりこみ」を避けて、本質的なことば(イメージ)に到達するか、ということに悪戦苦闘して自分の生命を持続させることのなかにのみ、存在すると思うのであると定義し、こういうことを身を以って体験したと思われる、中原中也、立原道造、そして富永太郎の三人の詩人を取り上げています。そして、中原については、答えしか詩のなかで提出することのできなかった詩人であるとし、立原については、詩は究極のところで、一つの物語と考えており、探ることにその本来の詩人的素質を持っていたとし、永久に問うことしかしなかったと言います。そして、富永については、「強いられた自殺」を「自分の手による自殺」に切り替えることによって健康であろうとしたおそらくただ一つの許された例外であったと述べています。

2012-06-22 Fri 18:20 | 古本

2012-06-11 Mon

三好達治編「日本現代詩大系第9巻」(河出書房) 昭和27年7月10日刊


 これも恩田の装幀によるもので、この巻は三好達治が編者です。このシリーズの素晴らしいところは、各詩集の書影が掲げられているほか、発行年月日、発行所名、判型、頁数、定価の記載があることです。但し書影については印刷が悪く、はっきり分からないものもありますが、本巻に収められている詩集の多くは、今では容易に観ることができないものもありますから、貴重と言えます。西脇順三郎の「Ambarvalia」は限定30部でしたし(但し今は復刻版がありますが)、高祖保の「希臘十字」は70部しか発行されていませんでした。よく集められたと思います。
 そして、「能ふ限り原型を保存することに努めた。収載した詩篇はすべて初校本を定本として用ひた。」とあります。初校本自体は手に入らなくとも、読めるものもありますが、新字になっているものがほとんどで、この点でもこの本は素晴らしいと思います。
 
 

2012-06-11 Mon 18:41 | 古本

2012-06-11 Mon

大木篤夫 「危險信號」(アルス) 昭和5年9月27日刊


これも恩地の装幀によるものです。おそらく箱入りと思われるのですが、私が持っているものは、箱はありません。大木は長い自序を書いていて、その中で、「この詩集一巻は、著者が、この四年来の思想的混沌から生まれた時代的苦悶の告白であり、彼自身への、同時代の没落階級への危險信號であり、新興階級の戰勝行進曲の前に、彼が贄として捧げる没落の哀歌である。」と大変勇ましいことを書いています。
     「あるVision」から
  寒暖計は零度になった
  眞昼の日中に
  霏々として雪が降ってゐた  風が荒れてゐた
  街角に紫の花をつけた潅木が揺れてゐた
  うなりながら 赤い飛行機がビラを撒いてゐた
  塔の鐘が危險信號を鳴らしてゐた
  年月の層を刻む 高層建築の目盛りが罅割れてゐた
  マンモンの下僕の群れが そこに蟻のごとく膠りついてゐた
  機械の狂氣が ああ やうやく飢ゑてゐた
        (略)

2012-06-11 Mon 18:36 | 古本

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