Renkei日記 - 八十島法律事務所

2012-08-16 Thu

東雅夫編「鏡花怪異小品集おばけずき」(平凡社ライブラリー)2012年6月8日刊


編者である東は、この本を編集した目的について、1970年前後に、鏡花文学に対する評価軸の一大転換がもたらされ、かつてのような揶揄のニュアンスが払拭されてすでに久しいが、いまだ十全には再評価の及んでない領域が残されており、その最たるものが「小品」の世界であるとしています。確かに、鏡花の小説は、すでに「古文」の域にあり、必ずしもとっつきやすいものではなくなっていますが、この本で採られている小品は、読みやすいものとなっています。
 中で、特に印象に残ったものが、「夜釣」という作品で、これは、釣好きの大工が、家族に内緒で、夜中に鰻釣に行ったようなんですが(これも実ははっきりしません)、夜が明けても帰宅しません。それでばたばたしていたところ、いつの間にか、台所の手桶に大きな鰻がいて、子どもが鰻が逃げてはいけないと思って、ふたをして大きな石を載せます。妻の不安感と、鰻の出すぴちゃぴちゃという水音が、不穏な空気をかもしだし、怖さを感じさせてくれます。

2012-08-16 Thu 17:54 | 新刊本

2012-07-19 Thu

荒川洋治 「詩とことば」 (岩波書店) 2004年12月16日刊


こちらが元本です。編集委員の加藤典洋は、「いま、この時代に、ことばを生きるということがどのような経験であるのかについて、5人の編集委員(荒川もその一人)が、ことばとの付き合いが教えてくれたことを書いてみたとあります。
 荒川は、「散文は、個人的なものをどこまでも擁護するわけにはいかないもので、その意味では冷たいものであるが、詩のことばは、個人の思いを、個人のことばで伝えることを応援し、支持する、それがどんなに分かりにくい言葉で表わされていても、詩は、それでいい、そのままでいいとその人にささやくのだ。」と書いています。
 また、「でも本当に詩は、読まれていいのだろうか。読まれてしまったらおしまいではないか。人に読まれないからこそ、詩は生きることができる。」とも書いています。

2012-07-19 Thu 17:39 | 新刊本

2012-07-19 Thu

荒川洋治 「詩とことば」 (岩波現代文庫) 2012年6月15日刊


元本は、岩波書店の「言葉のために」のシリーズの1冊として出ています。この文庫は、新たに書き下ろされたものが6編含まれています。その一つが、「詩の被災」と題されたもので、
 大きな災害のあとで、大量のたれながしの詩や歌が書かれて、文学「特需」ともいうべき事態が生じた。それが、受け取った人々からすれば、「そうか。詩は、この程度のものなのだ。」と感じさせることになった。だとしたら、これは「詩の被災」である。戦後に書かれた詩の「意識」に、ひとついいところがあったとしたら、だいじなことは書くが、書かないことについては書かないということだ。簡単には同調しない。機に乗じない。「詩の被災」について詩人たちが意識を持たないことは、戦後の詩の理念が崩壊したことの印である。
 と書いています。激烈ですね。

2012-07-19 Thu 17:37 | 新刊本

2012-07-09 Mon

由良君美 「みみずく偏書記」 (ちくま文庫) 2012年5月10日刊


 元本は、1983年に青土社から出ています。書評や読書論などからなっています。
 柳田国男について、その発想源が実は外国にあったとし、「実に不思議なことに、日本で何らかのイデオロギー的立場に立つ人たちは、すべてと言うほど書誌学に弱い。こういう柳田の一側面に対しては、見込みも甘いし、評点もいい加減である。」と書き、郡虎彦については、「白樺派正統派の人たちについてのいわゆる人道主義的評価なるものについては、私はあまり点の甘い方ではない。白樺派に属しながら、そのいわば、ズッコケ組に入りそうな人たちの方に、どうしても、私の高い評価は傾いてゆく。」と書き、また「悪い所を知り抜かないで、どうして相手をまっとうに評価できようか。」として、ドイツ人よりも激しいナチ精神の体現者であったイギリスの謀略放送家について語っています。
 彼自身いろいろ言われることの多かった人のようですが、書いていることは無類に面白いと思いました。

2012-07-09 Mon 17:48 | 新刊本

2012-07-02 Mon

丸谷才一 「快楽としての読書(日本篇)」 (ちくま文庫) 2012年4月10日刊


 本書は、1964年から2001年までに書かれた約600篇もの書評のうち123篇が収録されています。著者は、著名な作家ですが、書評について一家言持っています。いわく「書評は読書案内として役立つこと、そのためには信頼されなければならない。そして信頼されるというのは、書評の書き方の感じだと思ふ。」とあります。そして、戦後イギリスから雑誌が入るようになって、最も感銘を受けたのは、書評欄の充実ぶりであった、戦前の日本にも書評はあったが、紹介の面は具体性が乏しく、批評の面は構えが単純で、対象である本が迫ってこなかったといっています。そして、扇谷正造が1951年に週刊朝日の編集長になり、週刊図書館という書評欄を始めたのが、日本における本格的な書評の嚆矢であったと言っています。
 この本は、著者のアイウエオ順となっていますが、できれば出版順にして欲しかったと思いました。
 

2012-07-02 Mon 18:33 | 新刊本

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