Renkei日記 - 八十島法律事務所

2013-08-09 Fri

加能作次郎作品集(講談社文芸文庫) 2007年1月10日刊


 加能は、昭和16年8月に56歳でなくなりますが、作品は大正年間に大半が出版され、昭和に入ると作品が少なくなります。昭和初期の、プロレタリアだとか、モダニズムといった風潮が彼の作風と合わなかったという事でしょう。
 しかし、昭和15年8月「中央公論」に発表した「乳の匂い」は、もっとも知られた作品です。
 これは、著者と思しき少年と、彼の義理の従姉との交流を描いたお話です。この作品のなかで、この従姉が、少年の目に入ったごみを乳汁で洗眼するというシーンがあります。
 荒川洋治は、解説で、「母なるものへの思いがしたたる」と書いていますが、私は母ではないだろうと思いましたね。素直に。
 加能の作品には、随所に昔の日本語のなんともいえないあたたかみみたいなものが伝わってきます。荒川は次のように書いています。
「『昔あったとい。』『聴いたわね。』の声は美しい。そして楽しい。その声は優しい文字、あたたかい言葉となって、世の中へ届けられた。」

2013-08-09 Fri 18:11 | 古本

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