Renkei日記 - 八十島法律事務所

2013-11-30 Sat

長谷川郁夫 「藝文往来」 (平凡社) 2007年2月20日刊


著者は、大学在学中に小沢書店を創業し、数々の良書を世に送り出していたのですが、2000年9月に倒産してしまいます。この本は、それから3年後に、今はなき「彷書月刊」に「日だまり図書館」として連載していたものを中心に編まれた随想集です。
 山口哲夫、田村隆一、北村太郎、伊達得夫、長谷川巳之吉ら、文藝に関わった多くの人達のことが取り上げられており、何度も読み返したくなる本です。
 「記憶の中の本」から
「本をまとめて売り払った経験が二度ある。(略)2度目は数年前、経営していた会社の状況が思わしくなくなってきたとき。このときは根こそぎだった。(略)いま私は、必要に迫られて失った本を取り戻そうと、古書街を歩く。だがあきらめと欠落感に躓きそうな気分に襲われることがある。蔵書の中に封じ込めておいたあの熱中という名の蒐集エネルギーは、液体が気体となるように蒸発して消えてしまった。私が求めているのは、本当に“本”なのだろうか、と。」 

2013-11-30 Sat 18:09 | 新刊本

2013-10-15 Tue

板倉重雄「カラヤンとLPレコード」 (アルファベータ) 2009年9月1日刊


 著者は1965年生まれで、HMVジャパン(株)の社員です。
 これは企画が面白いと思いました。あのカラヤンの、しかもLPレコードの本を作るとは。
 年代的には、自分の小遣いでパッケージソフトを買えるころには、CDの時代になっていたと思うのですが、小学校3年生のときに、カラヤン指揮のスッペの「軽騎兵」序曲を聴いて、クラシック音楽の魅力にはまったとありますから、LPレコードに十分なじんでいたということなのでしょう。
 この本を書いた理由として、「現在、パッケージソフトの売り上げが、音楽配信などに押されて不振である。パッケージソフトとしての魅力について考えていたとき、カラヤンのLPレコードというのは、やはり理想的な形ではないかと思い始めたことが、この本を執筆した大きな動機となっている。」と書いています。
 カラヤンに興味がなくても、パッケージソフトにこだわりを持っている人であれば、楽しく読めると思います。

2013-10-15 Tue 19:21 | 新刊本

2013-09-18 Wed

内堀弘 「古本の時間」 (晶文社) 2013年9月10日刊


内堀氏の「石神井書林目録」、「ボン書店の幻」に続く3冊目の著作です。内堀氏は詩歌専門の古本屋さんで、店売りはせず、目録販売をしています。私も目録が送られてくるのを楽しみにしております。
 この本は、同業者の話や、仕事上の苦労話、そして今はなき「彷書月刊」という雑誌の話など様々なことが書かれていますが、とても含蓄のあるフレーズがたくさん出てきます。例えば、
 「古書の世界にたどり着くものを見ていると、どうしてもこの世から消せないものはあるのだと思う。燃やすことも、捨てることも、何もできずに、なんだか分からないものとして遺されていくもの。そこに憑いたその人の時間や気配が遺っているのだ。」
 「本はものを伝える雰囲気そのものだと思う。こういう『気』が備わっているものを、古本屋の棚は残してきた。」
 「書物(紙の器)は、それ自体が物語なのだ。」
 田村治芳(彷書月刊の編集長)が、雑本、雑読こそ古本屋の原点であると話すのを聞いて、「田村さん、それではもう古本屋は食べてはいけないんだよ。しみじみそう思うのだけれど、でもそれをなくしたら、たしかに私たちは古本屋ではなくなってしまう。」
  

2013-09-18 Wed 19:38 | 新刊本

2013-09-13 Fri

寺島珠雄編著「釜が崎語彙集1972−1973」(新宿書房)2013年8月5日刊


 本書が書かれた40年ほど前は、釜が崎では暴動が頻発していました。それは、日雇労働者の生きるための戦争でした。これは、そんな時代に「釜が崎」にまつわる問題を、事典の形式を使っていますが、抉ったドキュメンタリー、ルポルタージュとなっています。
 例えば「学生」という項目では、「どちらへでも、その気になれば転生できる人間=学生ということである。プチブルを非難しても自分を決してプチプロとして認めなかったのが、新左翼運動の一つの欠陥ではなかったか。」と書いています。
 「釜が崎」の問題をあらゆる方向、視点から分析したすごい本だと思います。
 現在「釜が崎」の戦争は鎮圧され、街は静かに老いました。しかし、本当に恐ろしいのは、現代においては「全国が釜が崎化し、釜が崎は特殊から一般に転じた」ことなのです。
 

2013-09-13 Fri 19:56 | 新刊本

2013-09-04 Wed

小沢信男「通り過ぎた人々」(みすず書房) 2007年4月9日刊


 1945年に創立され2005年に解散した新日本文学会に所属していた著者が、この会を通じて知り合った18人について語ったものであると同時に、新日本文学会に対する愛惜を綴ったものです。
 18人はすべて物故者ですが、井上光晴については、小説家とはこういう人なのだと感銘した、菅原克己については、天成の純で美しいものを生涯保ちつづけたと書いています。
 また寺島珠雄については、「こんなにもかっこよく人は死ねるのか、アナキズムの徹底的実践で到達した涅槃ではなかったか。」と書いています。
 寺島は、晩年癌を患いますが、自分から病院には行きませんでした。それを彼の支持者であった女性たちが、寺島を拝み倒して入院させ、国民健康保険も取得させます。それまで国民健康保険にも入っていませんでした。そして、最晩年まで病室で執筆を続け、支持者の女性たちに囲まれて亡くなっています。

2013-09-04 Wed 19:21 | 新刊本

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