Renkei日記 - 八十島法律事務所

2011-05-10 Tue

映画としてのインテリジェンス


  シアターキノで、「私を離さないで」を見ました。原作を読んでから見たのですが、原作とはまた別の魅力にあふれた映画でした。原作では、キャシー、ルース、トミーの人間関係と、彼らに課せられた残酷な真実を、あたかも推理小説のように緊張感を持って少しずつ明らかしていき、しかもその二つのテーマを、密接に絡み合わせるという、構成にしています。主人公3人はやがてそれぞれ少しずつ自分たちの残酷な運命に気付いていきますが、その過程で、ルースはトミーに執着し、トミーは気が違ったかのように喚き暴れるといった態度を取りますが、キャシーは一人、運命を受け入れ、淡々とし少しも取り乱すということがありません。それは、キャシーが、自分たちの過去を振り返って回想するというスタイルで描かれているためであり、抑制の効いた、詩情溢れるものにしています。
 映画では、原作の魅力を損なうことなく、ある意味映画らしい分かりやすさに変えています。例えば、原作では、主人公のキャシーはトミーと別れることになっていますが、映画ではトミーの最後を看取っています。また、映画が始まってかなり早い段階で、彼らの残酷な真実を明らかにしています。原作には色々なエピソードがあり、キャシーとトミーがカセットテープを探す話など中には映画向きかなと思われるものもありますが、そうしたものは最小限にして、原作同様、抑制の効いた詩情溢れる作品に仕上げています。そこに、映画としてのインテリジェンスを感じました。  
  

2011-05-10 Tue 09:57 | 映画

2011-04-19 Tue

無名の南畫家


先日、ネットで日本美術出版社版の加藤一雄の「無名の南畫家」を購入した。
古書好きには夙に有名な本である。依然どこかで、この本のことを「なんかいいよね。」と評している人がいて、一体何がいいんだろうと気になっていた。
話は、著者の少年時代ということになっている。薄ぼんやりだった私は、すべてのアカデミズムを心の底から軽蔑していた祖母の計らいで、二人の家庭教師を付けられることになった。そのうちの一人が、無名の南画家であった。ストーリイは、この先生との交情を軸に流れていき、最後は、この先生がひっそりと息を引き取るまでが描かれている。
加藤は、美術の先生で、本職の小説家ではなかったが、実に巧みに書かれている。そこで感想であるが、やはりなんかいいよねである。この先生は、行き当たりばったりのことしか言わず、収入もデパートの包装紙のデザインをしてわずかな収入を得ている程度で、貧乏であり、しかも孤独な人であった。晩年大きな仕事の注文が入ったが、結局仕上げることができず、無名のまま人生を終えている。
人はそもそも孤独なのであり、それ故に、あるいはそうであるからこそ、いろいろあがきながら力強く人生を送っていく事の大切さを身を持って、少年に教えたのである。

2011-04-19 Tue 14:52 | 古本

2011-03-22 Tue

 詩集 終の栖 城左門

 詩集 終の栖 城左門
 爾来古典と呼ばれる書物は実に印象深いフレーズで始まる。春はあけぼのとか、祇園精舎の鐘の音とか、男もすなる何とかとか、行く河の流れは絶えずしてとか。
 しかし、この日記は古典ではないので唐突に始まる。
3.11の大地震の時、私は東京にいた。地震の直後に購入したのが写真の詩集である。『詩集 終の栖 城左門』
箱の状態が悪いので安かった。地震が収まった時に、とっとと空港に向かえば良かったものの、高をくくって神保町辺りでぶらぶらしていたため、結局そこから浜松町まで歩いた上に、モノレール駅の改札前で一泊する羽目になってしまった。全く馬鹿者である。
  しかしふと考えるのである。あのままどこも寄らずに空港に向かえば、その日のうちに帰宅できたかもしれないが、城左門の詩集は手に入らなかったかもしれないと。

2011-03-22 Tue 13:20 | 古本

八十島法律事務所
〒060-0042
札幌市中央区大通西10丁目

周辺地図

●地下鉄東西線「西11丁目駅」下車
  3番出口直結 南大通ビル9階
●市電「中央区駅前」停留所より
  徒歩約2分
●近隣に有料駐車場有り

詳細はこちら>>