2012-05-14 Mon
向井が、「君が1冊の本の本質を一言で言い表そうと全力を傾ける、それに僕は聞きほれてしまってすぐに言葉を継いで行けず、打々発止という具合にいかなかったのが心残り」と言っているように、あの向井でさえ、聞き役にされています。例えば、向井が、安東次男の読みの深さについて触れたところ、「実は、釈迢空という人は、深読みじゃなしに、深思いをして作品を作る人だ。しかし、実際に釈迢空のどの短歌でも、迢空がそんなに思いを込めたほど、方法としての表現効果は出ていない、と言ってもいいのじゃないか。」とか、林達夫の「共産主義的人間」については、「この1冊はおそるべき書物で、二十世紀における革命とはどういう性格のものであるかということを的確に説き明かした、いわば革命総論であって、しかもそういう本として比類がない。」と谷沢は言います。こうした物言いは、谷沢の独擅場ですね。芸といってもいいと思います。
2012-05-14 Mon 19:18 | 古本
2012-05-09 Wed
新潮社から出ていたものの新装版で、奥さんがセレクトしています。この本の佇まいが好かったので手にとってみました。気になった文から。
「私は、川端康成の自裁は、自分の鳥の目が弱ったのを知ったからだと思っている。たぶんあの人は、鏡の中に、いつの間にか暖かい色が宿っているのを見てしまったのだろう。」
「《夏》の明るさの背後に、いつも《死》の影を見ていたのは、三島由紀夫だった。」
こういうことは、文芸評論家は考えないでしょうね。
「年を重ねてここまでくると、目に入るものや、耳にするものが、だんだんぼやけ、曖昧になってきて、<死>と<詩>だけが、いやに鮮明に見えたり聞こえたりするようになる。こればかりは、若いころにはわからない。」
2012-05-09 Wed 18:57 | 新刊本
2012-05-07 Mon
雑誌連載時のタイトルは、「音楽の誘拐」でした。これは、「音楽」を、それが今置かれている、あるいはかつて置かれてきたぬくぬくした状況の中から拉致し去り、別のコンテクストやニュアンスで語らせようという意味を込めたものと著者は言っています。例えば、
「多くの聴衆が求めているのは、指揮者が大きな身振りで踊ってみせ、達者なオーケストラが大きな音やテンポの煽りで興奮させてくれるエンターティンメントであって、耳を凝らして聞き取るような繊細な美や、知的なおもしろさではない。」、「人生においては、邂逅の神秘を満喫し、だがそれは決して永続するものではないと肝に銘じるしかない。本当に貴重なものとは、失われたものなのだ。」、「今私の手元には、3万円ほどで購った80枚組のセットが転がっている。グールドが行った正規の録音のすべてが含まれているらしい。それはカラヤンがちょうど20年前、最後に日本で演奏したときのチケットの値段とほぼ同じなのだ、という事実は改めて驚いてもいいことなのかもしれない。」
しみますね。
2012-05-07 Mon 17:59 | 新刊本
2012-05-07 Mon
クラシックミュージックに限らず、至上の喜びを味わうには、しばしば艱難辛苦がつきまとうものです。しかも艱難辛苦の末に、目標に到達できないことだって多いわけです。
この本は、作曲家の病的な妄想に付き合え、知識がなくてわかるものか、このしつこさに辟易するなどと言いつつ、曲の聴きどころやポイントを照会していく立派な入門書となっています。
マーラーの交響曲第9番については、芸術にとって、実は個や人間は不要なのであり、芸術を断念することで人間は生き延びたと書かれています。
2012-05-07 Mon 17:56 | 新刊本
2012-05-07 Mon
著者は、「問答無用とは、何でもかんでも切り捨てて殺してしまうという意味ではない。ある一瞬の邂逅。そのすれ違いの瞬間に相手の本質を見極めようとするが、それが見えたか見えないか、またたく間に離れてしまっている。そういうイメージである。邂逅やすれ違いはただ一瞬起きるだけであって、再現不能であり、問答など起きようはずがないということ。」と言っています。まあ、当て逃げに近いですね。例えば、
「基本的には、日本は、お金がないと快適が手に入らない国、ひいては幸福になれない国なのだ。そして人々は、こうした構造そのものを変えようとせず、自分がお金を儲ければいいのだと考える。典型的にアジア的である。いったい豊なのだかそうでないのか、分からないようないびつな風景画に日本中にあふれている。」
一応、クラシックの評論となっています。
2012-05-07 Mon 17:53 | 新刊本
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